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こんな風に、岬さんが家を訪ねて来るのは、もう何度目だろう。 来客用のカップを暖めながら、天道樹花はふと思った。 明るい陽の光が差し込むリビングのソファには、先日より綺麗にメイクした岬祐月が座っていた。 「お待たせしました」 暖かい湯気の立つコーヒーを、岬の前に差し出す。 今日も岬はきっと「これも仕事なの」と前置いた後、兄がいなくなった時の様子を訊ねるのだろう。 兄が帰って来るまで、同じ質問が繰り返される。 樹花はそう思っていた。 見覚えのある文字で書かれた一枚の手紙と、それを差し出した岬の悲痛な表情を眼にするまでは…… 「やっぱり、兄はもう帰って来ないんですね」 樹花は手紙を見つめたまま言った。 「やっぱりって、何か思い当たる事があったの?」 「離れている時は、もっと側にいる。今までも、そう言って家を開ける事はありました。だけど、今度は何となく違うと思ってました」 兄である天道総司が帰って来ないと思ったのは、何時からだったろう。 学校の友達がワームだった時?二、三日前自宅の付近にワームが現れた時だったか? 新聞やニュースだけでなく、樹花の周りでもワームによる襲撃は、数え切れないほど起きていた。 その度に樹花を救ったのは、岬や蓮華、ZECTのメンバーであり、兄は助けに来なかった。 兄だけでなく、その友人や、樹花も慕っていたひよりも忽然と姿を消している。 本当は、岬が訪ねて来ることも、何か重大な事件にでも巻き込まれた証拠なのだと思っていた。 兄以外の誰かに助けられ、兄のいないリビングで膝を抱え、時が止まってしまったように長い夜を過ごす。 一人で過ごす寂しい夜が「もう帰っては来ない」と樹花に語りかける。 唯一出来る精一杯の抵抗は、朝、誰もいないリビングに向かい「お兄ちゃん。おっはよう!」と以前と変わらず声を掛ける事だけ…… そうしなければ、兄が二度と帰って来ないと認めることになる気がしたからだった。 だが、岬から見せられた「樹花を頼む」と締めくくられた手紙は、もうそれすらも必要ないと物語っていた。 樹花は必死に続けていた抵抗をやめなければならない。 大好きな兄の死を認める、人生で一番悲しい瞬間。 「なんとなく分かっていたんです。お兄ちゃんがもう帰ってこないのが…… なのに、おはようがやめられなくて、おはようって言い続けてたら、またお兄ちゃんが、おはよう樹花って…… お味噌汁を片手に、キッチンで笑って立っているような気がして……」 大粒の涙が頬を伝う。 一人きりになってから、ずっと我慢していた涙を諦めと言う心が開放した。 「あれ?おかしいな?泣かないって決めてたのに、なんで涙が出るんだろう…… だって、私が泣く時は、いつもお兄ちゃんが側にいてくれたから。 ツラくて悲しくて泣いてるのに、お兄ちゃんがいなかったら……お兄ちゃん、私どうしたらいいかわからないよ」 いつも涙を拭いてくれた兄の暖かい手は無く、零れ落ちた涙は、樹花の細い指先を濡らして行くだけだった。 ∮ 二日後、岬は再び樹花を訪ねた。 丸二日何も口にしていないのは顔を見ればわかる。ふっくらしていた頬が少し小さくなった。 渋る樹花を車に押し込み、Bistro la Salleへ車を走らせた。 岬がSalleへ行くのは、今週に入って三度目になる。一度目は天道の手紙を見せるため、二度目は樹花に会った直後。 一度目は、田所チームへ上からの命令だ。 ZECTは『この手紙は天道が死後届いた物で、別の時空といった記述は何かを示唆する意図の物である。 ワームの協力者等の犯罪組織に拉致され救出不可能な場所におり、生存、帰還の可能性は無い』と言う見解を出した。 矢車と加賀美については、すでにZECT本部からそれぞれもっとも近い間柄の者に連絡が行っている筈だった。 神代剣に関しては彼が死亡している事で、関係者に伝えるか否か、ZECT内で意見が分かれた。 じいやは今、ディスカビル家再興のためZECTに雇われている。 エリアZに程近い一角で衛生班と共に傷ついたZECTの隊員や、ワームによって瓦礫と化した街で、家を追われた人達の食事の世話をしてくれている。 ZECTの関係者である事、岬が自らじいやに伝えると志願したので、田所が上にその意見を通した。 ひよりについては、両親を亡くしているため、弓子が一番肉親に近い者として選ばれた。 そうして、失踪したひよりと天道、神代の関係者に手紙を見せ、事実を知らせるのは岬の仕事となった。 ――辛い仕事になる。 田所にも言われたが、本当にそう実感したのは、通いなれたBistro la Salleの前に立った時だった。 愛する者を失う悲しみ。 岬自身も、痛い程よく分かっている。 実際、風間大介に手紙を見せられた時、人目も憚らず岬は泣いた。 なぜ、剣が死してなお戦わなければならなかったか。 加賀美や天道、ひよりまで、なぜ連れ去られてしまったのか? 彼らは、どれだけ苦しんで逝ったのだろう。 残された者は『なぜ?』という行き場の無い思いを、一生背負い生きなければならない。 だからと言って伝えなければ、彼らは一生待ち続けている。 『いつか帰ってくるかもしれない』と何の根拠もなく…… 意を決して岬はドアを開けた。 閉店前の時間だったため、他に客は見当たらなかったが、弓子は後片付けで一人忙しく働いていた。 以前は、天道に張り付いた蓮華が片付けを手伝っていた。 だが、天道がいない今、ZECTが蓮華を遊ばせておく訳がなく本部に呼び戻された。 弓子を手伝う者はいない。 岬に気が付いた弓子が片付けの手を止め、笑顔で迎えてくれた。 「忙し時間にすみません。一人じゃ大変そうですね。誰かバイト入れたりしないんですか?」 「それも考えたんだけどね~加賀美君。まだ、仕事休んでるんでしょ?普通ならクビよね。 本業も首になって、バイト先も無くなっちゃったら困るかな~なんて思って…… ひよりちゃんも荷物置きっ放しだし。二人とも帰って来る場所がないと可哀相でしょ?」 言葉に詰まる。 いつも二人を温かく見守ってきた弓子には、知らせなければならない。だが、そんな弓子だからこそ、受ける痛みは計り知れない。 一呼吸置き、弓子と向き合った。 「弓子さん。加賀美新と日下部ひよりの行方について、あなたにお伝えしなければならないことがあります」 いつになく真剣な岬に、弓子の表情が曇る。 岬の言葉を、一つ一つかみ締めるように、時折頷きながら弓子は聞いていた。 手紙を受け取り読み終えると長い長い沈黙の後、がっくりと肩を落とした。 「そうか……あの子たち、もう帰って来ないんだね。新しく揃いのエプロン買っちゃったんだけど、どうしようかな……」 厨房の隅にリボンの掛けられた包みを見ながら寂しそうに呟いたのは忘れられない。 そして帰り際に言われた弓子の言葉も…… 「辛い仕事だったね。岬さん。私に教えてくれてありがとう。皆でしっかり樹花ちゃん励ましてあげよう。 加賀美君もひよりちゃんも、きっとそれを願ってると思うから」 とても勇気づけられた一言だった。 影山や風間達が戦ってくれているお陰で身体的な危険はそれ程心配ない。 心配なのは心のケアだ。 (私にそれが出来るの?大したことは出来ない。けれど、一緒に前に進もう) 自問自答を重ね、岬は答えを出した。 二度目は、じいやと共に樹花を元気付ける計画を練るため。 じいやに告げた時、「きっと、ぼっちゃまもそれを望んでいらっしゃるでしょう……」と弓子と同じ答えをくれた。 そして、今日は計画を実行する。 Salleに着くと、店の外まで良い香りがしていた。 昨日からじいやと弓子が、腕によりを掛けて樹花のために用意してくれた食事の香りだ。 戸惑う樹花の手を引き店内に入ると、弓子が明るい声で迎えてくれた。 久しぶりに誰かと食べる食事は、岬にとっても楽しい物だった。 樹花もそうなのか、少しずつだが口に運び会話にも答えてくれる。 弓子も安心したのだろう。さっきまでは厨房からしきりに様子をのぞいていたが、今は姿が見えない。 「じいやさんと弓子さんが、作ってくれたんですよね。じいやさんは?」 「残念だけど仕事なの。じいやさん、剣君の遺志を継いでディスカビル家再興のためにZECTで仕事してるのよ。 仕事と言っても、一般の人たちのために炊き出ししたり隊員の食事を作っていて、材料費を考えたらボランティアのようなものね」 そう言って、デザートの最後の一口を食べ終わった時、弓子が厨房から出てきた。 「樹花ちゃん。これ貰ってくれないかな? ひよりちゃんのために用意してたものなんだけど、樹花ちゃんが使ってくれたら喜ぶと思うの」 弓子は白いエプロンの入った包みとノートを樹花の前に置いた。 一緒に手渡されたノートを、そっと一枚一枚めくる。 ノートに綴られた一品一品からは、ひよりの料理に対する愛情という思いに満ち溢れていた。 一緒にノートをめくる岬の指先へも、その暖かさが伝わってくる。 樹花の表情が和らいでいく。 最後の1ページを読み終えた樹花の目には涙が滲んでいた。 「最後のレシピ、まだ完成してないんですね」 「それは、樹花ちゃんにお願いしようかな?いつか完成させてね。天道君の妹だものきっと出来るわ」 樹花は答えなかった。ただ『天道の妹』その言葉が誇らしいのか、はにかんだ笑顔を見せた。 健気で可愛い。 岬も無意識に微笑んでいた。 (天道君、これね。あなたの守りたかったのは……でも、あなたもこの笑顔に救われていたんじゃない?) 岬はそっと樹花の肩を抱き寄せ言った。 「笑ってなさい。渋谷隕石で両親を亡くした天道君も、あなたの笑顔でどれだけ救われたことでしょうね。だから笑ってなさい」 岬の腕の中で、樹花が大きく頷いた。 食事を終えた樹花は、ひよりのエプロンを着け、後片付けを手伝った。 岬が車を表に着けるとノートとエプロンを大事そうに抱え、弓子にぺこりと頭を下げ助手席に乗り込んだ。 「気をつけて帰ってね。また、いつでもいらっしゃい。待ってるから」 手を振りながら弓子は、今日は綺麗にメイクしてたのね。と一言付けたし岬をからかった。 岬はあわてて否定する。 「あぁ、これですか?メイクなんていらないって言ってるのに、風間大介が無理やりしていったんです? でも、鏡を見て反省しました。泣き腫らしたひどい顔してたんだなぁって。あんな顔してたら、剣君が眠れないでしょうから……」 そう言って髪をかきあげる岬の前より細くなってしまった手首で、銀のブレスが光っていた。 帰りの車中で先に口を開いたのは樹花だった。 「じいやさんのお手伝い、しちゃダメですか?」 「どうして?あそこは危険だし……料理がしたいなら、Salleじゃだめなの?」 どちらも学生である樹花を雇う訳にもいかないが。 真意を訪ねるため岬は問い返した。 「祖母が言ってました。 受けた恩は山盛り一杯返しなさいって。今日私がして貰ったように、 ワームのせいで家族がバラバラになった人たちの力になりたいんです。私、誰かを幸せにする料理を作ってみたい」 お祖母ちゃんが言っていた、久しぶりに聞いた台詞が岬の心に少し痛い。 「わかったわ。お給料の出ないボランティアになるけど、私が非番の時ならいいわよ。ボディガードになるから」 「やったぁ!」 もとよりゼクトに非番などないが、田所なら理解してくれるだろう。 「じゃあ、日曜日に」 「はい!今日は、ありがとうございました」 そう約束を交わし、樹花は車を降りた。 笑顔が戻った事に安堵する岬の頬を、サイドミラーに映った太陽が照らした。 (大丈夫よ、天道君。私があの子の笑顔を守るから) 岬に答えるように太陽が煌いた。 ∮ 日曜日、いつもより早く眼を覚ました樹花が、バタバタと階段を駆け下りてくる。 ひよりのノートをめくりながら簡単な朝食を済ませ、白いエプロンをバックに詰め込む。 燦燦と輝く太陽を仰ぎ(お兄ちゃん。行ってきます!)と心の中で声を掛けた。 眩しい朝の光の中を樹花は走る。 ――美味しい料理を作ろう。 どんな時でも希望が持てるように、辛い人生も変えてしまうぐらい、とびっきりの料理を。 ひよりさんの残してくれたノートと、お兄ちゃんがくれた『愛情』と言うレシピで……
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1278.html
「さぁて。それじゃまずはどうしましょかね。有希、冷蔵庫見せてもらっていい?」 一拍置いて、 「いい」 長門が答える。やっぱりぎこちないな。 「うん。それじゃちょっと失礼するわ……って、有希? ほとんど何にもないじゃないの!」 もちろん長門に呼びかけているのはハルヒである。その様子はテストでよろしくない点数を取ってしまった息子を叱りつける風でもあり、俺はこいつの息子でもないのに何やら胸がチクリとする。 「うーん。買出しに行く必要があるわね。って言っても、今あたしあんまり持ち合わせがないのよね」 ハルヒは自分の財布を取り出して中身を確かめた。突然俺に眼光が向けられる。何だよ。 「キョン、あんた、あたしたちに借りがあるわよね?」 何のことだか。それにその話を持ち出すのは反則じゃないのか? 「心配料よ。何なら医療費でもいいわ。あんたはたった今までそこでノビてたんだからね」 なんちゅう理屈だ。阪中や喜緑さんの相談からは金を取らないくせに、俺からは取るのか。 「うだうだ言ってんじゃないわよ。そんなこと言ってるとあんた今晩夕食抜きよ」 必殺のカードを切るハルヒであった。くそ、そう来やがったか。 「しょうがないな。分かったよ。俺が出しゃいいんだろ」 こんな時に限ってこづかい支給日直後だったりする俺はとことん運に見放されているね。 神々に事務係がいれば俺の運命係数をもうちょっとだけ上方修正してくれないもんだろうか。粉飾と呼ばれない程度にさ。 長門を見ると不思議そうに(見えたのは俺の錯覚だな)俺とハルヒの中間に視線を固定している。そこに人類が未だ発見していない情報意識体や何やらが見えるかのようだ。 「それで、誰が買い出しに行くんだよ」 俺の言葉にハルヒは片眉を吊り上げるというおなじみの仕草をして、 「料金を持つあんたとあたしは決まりね。あとは、そうね、みくるちゃん」 「ふぇっ、は、はーい?」 何やら物思いか思案に暮れていたご様子の夕方の女神、朝比奈さんは忘れていた新聞料金の徴収がたった今やって来たかのようにあわてて答えた。 「あなたも来てちょうだい。有希、悪いけど留守役頼んでいいかしら?」 片手を詫びの形にしてハルヒは長門に言った。留守役も何も、もともとここは長門の家だろうが。 長門は一度俺に無感動な視線を送ってから、 「いい」 と言った。しかしまぁ、こいつのこの反応ももう少しどうにかできないものかと訝る俺である。 「有希の話だとこの近くにスーパーがあるって話よね」 ハルヒは春うららかな夕方の空の下、さっき長門から聞いた言葉を復唱するように言った。 俺としてもこいつが妙な行動に走らないよう見ている必要がある。まるで生後数年の子どもを見守る父親であるが、はてさっきは子どもで今度は父親とはこれまた奇なものであるな。 ハルヒは俺たちを先導してどんどん歩き出す。この組み合わせはいつかの映画撮影の一時を思い出すね。思い出した くもない記憶、と俺はもう思わない。過ぎちまったことだからかもしれないが、あれだって何だかんだ楽しかった。 「朝比奈さん、大丈夫ですか? 何かさっきから上の空ですけど」 朝比奈さんは口元に軽く閉じた片手を当ててなお沈思黙考の様相を呈していた。そりゃこの人にとっても考えることだらけだろうな。こんな状況だし。 でもまぁ、と俺は思う。逆に言えばこんな状況もそう滅多にない。俺とSOS団女子ユニット三名がつかの間の晩餐を共にする、なんてのはな。ならばもうちょっとくつろぐべきなのだろう。長い日々の、これはきっと休息だ。それを各々がどこまで分かっているのかはともかくとして。 「え? キョンくん今何かあたしに言いましたか?」 10秒くらいは経過していた気がする。朝比奈さんはようやく隣に人がいたことに気付いたように言った。 しかるに俺はこう諭してみるのだった。 「朝比奈さん、もうちょっとだけ気持ちを楽にしませんか? 色々考えることがあるのは俺も一緒ですけど、だからこそ、こういう時だからこそ反対に楽しくしてることが重要なんです」 俺は慣れないスマイルを浮かべたつもりだが、はて彼女に伝わっているだろうか。古泉に一度本気で良質笑顔養成講座を開いてもらおうか。 朝比奈さんは大きくつぶらな瞳をさらに見開いてぽかんとしていたが、やがて俺と同じように、 「そ、そうですよね……うん。あたし、もっとしっかりしなくちゃって、そればっかり考えてて」 俺はかつての彼女の涙を思い出す。それだけでこのお方の気持ちは痛いほどに伝わる。ハルヒさえここにいなければ肩に手を回して白薔薇の一輪でも差し出してあげたい心境である。 「あ、着いたみたい! さぁ、さっそく買い物よ!」 袖まくりまでしてずかずかとスーパーマーケットに乗り込むハルヒである。あぁ、お前、いいかみさんになるぜ。 空に向かって吹くような心地よい春風に大いにあおられつつ、俺はのん気にそんなことを考えた。 ……買いすぎだろ。いくらなんでも。 一夜限りの臨時合宿のはずだぜ。四人分ということを考慮して、さらに朝比奈さん以外は全員が人並みかそれ以上に食べるとしても、この量はどう考えたって多い、つーか、俺の財布は冬に舞い戻ったかのように瞬間冷凍マイナス180度だ。人の金だと思ってハルヒめ。 「たっだいまー!」 ハルヒは出かけるときの何倍も威勢よく長門宅の玄関ドアを開けた。 後に続くはサンタクロースもびっくりの大入袋を抱える俺、何度も「あたしも持ちます」と心配りなさってくれた心優しき朝比奈さんである。 靴くらい揃えろ、と思わずツッコミを入れてしまう俺に見向きもせずにハルヒはキッチンに向かう。ねぎらいの言葉もなしに巨大な買い物袋を持って。やれやれだな。この言葉はもはや特定の状況下における通例句か挨拶である。 「何作ろうかしらねー」 半分以上呆れの面持ちをしている俺の対面に、ハルヒと朝比奈さんと長門が並んでいる。 よくエプロン三人分あったな。朝比奈さん激似合ってます、今すぐ嫁に来てください。ハルヒも悔しいが様になってるじゃねぇか。長門もこれはこれでなかなか趣が……って俺は何コスチューム評論家をしてるんだっ! ツッコむべきところはそこではないのだ。 「何作るか考えてなかったのかよ」 ここである。そりゃ買い物袋もブラックホールになろう。俺のなけなしの持ち合わせもカウントゼロに漸近するさ。 「当たりまえじゃない。だって、何が出来るか分かってたら、つまんないでしょ」 この発言によりこいつはめでたく家計を任せてはいけない女暫定一位に確定した。いやめでたい。そんな場合じゃない。 「あんたは有希のうちの掃除をしてなさい、いいわねっ!」 ここに来てハルヒ、絶好調である。わーったよ。どうせ異論は認めらんない、だろ? あたしたちが料理してるのに男が何もせずのんべんだらりと完成をまってるなんていけすかないわ! みたいなことを言うハルヒをリアルに想像できちまう俺はさながら妄想末期患者か? まぁ、男性も家事育児に参加すべきという世間的風潮には俺も同意するさ。 男尊女卑なんてのはつまらん慣習だ。SOS団は女尊男卑になってる感が否めないのだがな。 眺めていたらさぞ和むだろう三名の夕食調理風景に半分ほどの別れを告げ、俺は掃除機片手に部屋をまわる。つか、掃除って普通午前中にするもんだろ? 夕方のまして調理中にするもんじゃねぇ。間違いない。そもそも長門に許可を得てなくないか? 成り行きでコンセントにプラグを差し込む俺であったが。 ブィィィィンと機械そのものな音を立てながら掃除機は床にほとんどなさそうなホコリやチリをそれでもグイグイ吸い込もうと駆動する。まずは俺がさっきまでノビてた和室だ。あの七夕には朝比奈さんと二人で三年間も寝てしまった和室である。あらためて感慨にふけりそうになってしまう。長門本人はもちろんだが、長門の家にもずいぶんと厄介になった。今やSOS団第二アジトといっても過言でも虚言でもない。 居間は後回しで俺は部屋から片付けていく。本当にさっき掃除したかのようにどこもかしこも小奇麗に片付いている。 トイレを終えて、洗面所。ここも物が少ない。……ふと、コップに歯ブラシが一本入っていることに気がついた。 さっき、朝比奈さんに楽しくしてましょうとか言っておきながら、ふっと青い色が胸をよぎる。 そうだったな、長門……お前は今、ひとりなんだよな。 俺は置いてきちまった色々を思って、それから今ここにいる長門のことを考えた。 もしかしたら、あいつは本当に今日掃除をしたのかもしれない。 訊いたって答えるかどうかすら定かじゃないが、そうしていたって不思議はない。 俺が入ったことのない部屋があった。いつもばたばたしていて気がつかなかった、玄関脇の小部屋。 そこは三面が上から下まで本棚で埋まっていて、隙間なく大小様々な本がびっしりと収まっていた。 俺は掃除機のスイッチを切った。並んでいる本を見渡す。本当に多種多用だ。これらすべてを読んだのだろうか。 一冊を手に取る。見覚えのある表紙。そして……栞。 何も書かれていない。 長門は一日の多くをこの家で過ごしている。 あいつにとって、今この時はどういう風に感じられるのだろうか。 雨が降ろうが嵐になろうが静謐を崩さない部屋に訪れる、いつもと違う、時間。 楽しく、か。 それが今のあいつには難しいってことくらいは分かっているさ。 でも、そう願ってしまうのは、俺に心残りがあるからだ。 俺は栞を元に戻すと、本をたたんであった場所に収めた。 掃除機のスイッチを押す。 「でーきたわよっ! 力作だわ! 三人分の情熱がこもってるって感じね」 すべての部屋に響き渡っているだろう明朗ボイスで、ハルヒはそうのたまった。 そして俺は呆れや脱力をすでに通り越し、感嘆すら通りすぎて安心してしまった。 ……。 やっぱすげぇよ。お前はな。 「なに変な顔してんのよ。さ、冷めないうちに食べましょ!」 オムライス、野菜スープ、ポテトサラダ、鳥のから揚げ、肉じゃが、ほうれん草のソテー、ピーマンの肉詰め、きんぴらごぼう、麻婆豆腐、etc……。 いくらなんでも作りすぎだとか言うつもりはなかった。……これでこそハルヒだろ? ちょっとしたブルーも何のその、真夏の太陽もびっくりのエネルギーと笑顔ですべてを吹き飛ばしちまうんだからさ。 「朝比奈さんはどれを作ったんですか?」 横にいた幼き上級生に俺は言った。さっきよりずっと元気そうに見える。 朝比奈さんはぽわんと微笑むと、 「えっと、な、内緒です! 食べてからのお楽しみで、ね?」 あなたにそう言われちゃもはや俺の胃袋もご相伴を待つばかりである。 だがその前に俺は長門にそっと訊いてみる。 「どうだった? 料理は?」 退屈しのぎくらいにはなっただろうか。 「……」 長門はやはり5秒以上の間を空ける。やがて、 「無為ではない」 ははは。なるほどね。そっかそっか。まぁいいさ、それでも十分だ。返事が聞けただけでも、な。 「みんな席について! はい、それじゃぁ」 いただきます そう。これはほんの一時、心安らげる休息なのだ。 だからこそ、くよくよしたりたわけた禅問答したりは、おあずけにすべきなんだ。 「おいハルヒ! 箸をはなせ!」 「何よ! 同じのたくさんあるでしょ!」 「これは俺が先に取ったんだ」 「いいえあたしの方が早かったわ!」 な、そうだろ? 長門、古泉。 「二人とも食べ物で遊んじゃだめですよ~」 「離せ!」 「あんたが!」 「……」 あなたたちと、夕食。 ―― ――エラーを検出。 (おわり)
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お盆休み、僕は、水銀燈を連れて故郷に帰ってきた。 ジ「や~っと着いた。長かった。」 銀「へぇ、もっと緑溢れるって感じを想像してたんだけど、 そうでもないわねぇ。」 ジ「都市ってわけでもないけど、田舎ってわけでもない。 まぁ、微妙なところだな……。 とりあえず、約束の場所に行こう」 銀「はぁい。あなた。」 そういいながら、彼女は腕を組んでくる。 さすがに、これだけは何時まで経ってもなれない。 ジ「なぁ、腕組むのやめてくれないか? 銀「あらぁ、いいじゃない。恋人同士なんだし。」 ジ「けれど、恥ずかしい……」 銀「もう、いい加減慣れなさいよぉ。」 そういいながら、彼女は放そうとしない。 道の途中で、知り合いとあった。 「よう、お帰り。 ってか、美人な奥さん連れやがって、 うらやましいぞ、この野郎」 水銀燈とは結婚まではいってない。 けれども、水銀燈は嬉しそうに、 銀「妻の水銀燈です」 なんて挨拶する始末。 ジ「頼むから、止めてくれ。」 銀「あらぁ、いいじゃない、いずれそうなるんだしぃ。」 ジ「いや、そうだけど、これとそれとは話が違う。」 銀「つまんなぁい」 と言って、唇を尖らせた。 「くそ、なんか、俺が惨めになってきたぜ」 そういいながら、知り合いは立ち去った。 やっと、約束の場所、真紅の家についた。 そもそも、元をたどれば、 水銀燈が真紅に会いたいといったことがきっかけだ。 水銀燈曰く、「ジュンにとって大切な人なら、私も知っておきたい。」 真紅に電話をかけると、彼女もOKした。 僕も、真紅と水銀燈は、二人ともくんくん好きだし、 どことなく、似てる部分もある。 だから、多分仲良くなってくれるだろうってことでつれてきた。 チャイムを鳴らすと 金髪を結び、赤のワンピースを着た懐かしい顔が出てきた 半年程度なのに、ずいぶんと昔のような気がする。 紅「いらっしゃい。……ジュン、久しぶり。」 ジ「久しぶり。真紅」 紅「あなたが、水銀燈ね。よろしく」 銀「よろしくぅ、真紅」 紅「ジュン、さっそくだけど、紅茶を入れなさい。 台所の場所は忘れてないわね」 ジ「はいはい。」 紅「はい、は一回」 ジ「はいはいはいはい」 懐かしいやり取りをしつつ、僕は台所へ向かう。 後ろから不意にすっごい声が聞こえた。 銀「きゃぁ~!!すごいわぁ! このくんくんなりきりセット。 視聴者プレゼントの貴重な一品だわぁ。」 紅「あら、あなた、なかなか分かっているようね。」 銀「こっちは、映画版、くんくん探偵 眠りの森の秘密、初回限定版!! すごいわぁ!ほんとにすごいわぁ!!」 水銀燈はとてもうれしそうに声をあげる。 普段なら、「私は別にこんなの……」とかいうはずなんだが。 それだけ、真紅のコレクションがすごいってことか? とりあえず、仲良くやってくれそうだな。 僕は、茶器を取り出す。 久しぶりに見た、ティーポット。 そういえば、僕はこのティーポットで始めて、紅茶淹れたんだっけ? 紅茶と呼べるような代物ではなかったにせよ懐かしいな。 銀「あらぁ、しっぽの先に色がついていないわぁ。 ……手作りのくんくん?」 紅「ええ、ジュンが作ってくれたものよ。」 銀「へぇ、ジュンが。」 紅「……少し、聞いてくれるかしら。私の昔話。」 銀「えぇ、興味があるわぁ。」 紅「私は小学校のころ、両親を亡くして、親戚に引き取られて ココに引っ越してきたの。 親を亡くしたショックで、ほとんど誰とも口を聞かず、ずっと、一人でいたわ。 そんな時に、ジュンがこの人形をくれたのよ。 くんくん、おもしろいよ?一緒に見ないか?ってね。 始めは、余計なお世話と思ったけれど、何度も、何度も誘ってくれてわ。 それで、見てみたらすごいおもしろくてね。 ジュンと少しは話すようになってわ。 でも、私は素直じゃないから、ジュンを困らせるようなことばっかりいってね。 紅茶を入れなさいって言ったこともあったわね。 茶葉とお湯を混ぜれば、できあがり、とか、無茶な命令して、 それで、ジュンが作った紅茶をとても飲めた物じゃないと言ったり。 まぁ、それは、ひどいわがままぶりだったわ。 でも、ジュンは、そんな私に付き合ってくれて、 どこから勉強したのかは、知らないけど、 いつの間にか、すごくおいしい紅茶が淹れれるようになったわ。」 銀「へぇ、そんなことが」 紅「ともあれ、私はジュンに感謝してるわ。 彼がいなければ、今の私はいない。 彼に幸せになってほしいと願ってる。 ……あなたは、ジュンを幸せにしてくれるかしら?」 銀「まかせなさい。ジュンをちゃんと幸せにするわ。」 紅「そう、それを聞いて安心したわ。ジュンのこと、よろしく頼むわ。」 ジ「ほら、淹れたぞ。」 紅「いただくわ。」 真紅は、前と変わらず、優雅に紅茶を飲む。 紅「……腕をあげたようね。おいしいわ」 その後、真紅と水銀燈はくんくん談義に花を咲かせた。 というより、見渡す限りに花が咲き乱れるくらいの勢いだったな。 僕もくんくんは見ていたが、正直なところ話に混ざれる気がしない。 いつもは、「紅茶は静かに楽しむものだわ。」なんて、言ってるとは思えない。 そんな勢いなので、喉も渇いたのだろう。 イッパイ入れた紅茶はすぐなくなった。 紅「あら、紅茶がなくなってしまったわ」 ジ「淹れなおしてくるよ」 紅「いいえ、私が淹れてくるわ」 ジ「そっか、じゃあよろしく頼む。」 真紅は台所に、向かった。 銀「ねぇ、ジュン。真紅から昔話聞いたわよ。 真紅にやさしかったのね?」 ジ「まぁな。 中学入ったくらいから、ほとんど家に戻ってこなくなったんだけど、 そのころ僕の家は、大体どっちかの親がいない程度でさ。 真紅はずっと会えないって考えると、放っておけなくて……。」 銀「真紅は、あなたに感謝してたわよ」 ジ「僕も感謝してるさ。 僕が辛い時に守ってくれたのも、彼女だしね。」 銀「彼女といて幸せだった?」 ジ「居心地のいい関係だったけど……幸せとは違うかな。 僕が幸せと感じるのは、水銀燈といるときだから。」 銀「もう……」 彼女は赤くなって黙り込んだ。 紅「できたわよ。味わって飲みなさい。」 澄んだ綺麗な紅。 漂う豊かな香り。 濃厚で複雑な味。 ジ「うん。おいしいよ。」 紅「当然よ。私にだってできるわ。」 その後、僕と真紅の昔話で盛り上がった。 ひどく恥ずかしい話を暴露してくれた真紅に対して、 僕もお返しを、と思ったけど本気で殴られたので諦めざるえなかった。 東京に戻ったら、水銀燈にバラしてやろう。 帰り際、水銀燈は名残惜しそうに、真紅と連絡先を交換した。 紅「また来なさい。いつでも歓迎するわよ。」 あの水銀燈の勢いなら、休みのたびに行きそうなんだが……。 真紅の家を後にし、僕の家についた。 久しぶりだな。何にも変わっちゃいない。 ……たった半年で変わるほうが恐いんだけどな。 ジ「ただいま、姉ちゃん」 の「きゃぁ~、ジュン君おかえり 元気にしてた?ご飯ちゃんと食べてる? お姉ちゃん心配してたのよぅ~?」 ジ「おおげさだな。姉ちゃんは。 毎日のように電話で話してるだろ?」 の「あなたが水銀燈ちゃんね。 ジュン君から話は聞いてるわよぅ~。 ホント、かわいいわねぇ~」 銀「ありがとう。お義姉さん。」 の「さあ、入った入った。 お姉ちゃんが腕によりをかけてご飯作ったから、 いっぱい食べちゃってねぇ~」 久しぶりの姉ちゃんの料理。 おいしいことは、おいしいんだけど テーブルに載らないほど作るのは……。 量くらい考えて作ってくれ。 あっという間に、お盆は終わりを迎えようとしているわ。 ジュンたちはそろそろ帰りの電車かしら。 ジュンは、ほんとに嬉しそうだった。 水銀燈も、ジュンを幸せにしてくれるっていったわ。 よかったわね。ジュン。 ちゃんと幸せになりなさい。 見送りに行きたかったけれど、私は、アルバイトなのだわ。 紅「おはようございます。薔薇水晶さん」 薔「……おはよう……顔色悪いよ?…… 無理しちゃだめ……」 私、そんな顔してるのかしら。 紅「大丈夫ですよ。たしかに、少し痛みはするけれども、 ……この傷は、もう古傷ですから。」 あなたを呼ぶたびにひどく痛んだこの傷も、 少しは古くなり、痛みは引いてきた。 紅「今日もよろしくお願いします。」 私は、精一杯の明るい声で挨拶したのだわ。 楽しい盆休みはあっという間に過ぎ、僕たちは、東京に戻る電車にいる。 銀「また、年末にこっちに来たいわぁ」 ジ「そだな。」 銀「できれば、休みのたびにこっちに来たいけど、 さすがにねぇ………」 あ、さすがに、休みのたびには、疲れるか。 銀「ジュンと二人っきりの時間も欲しいしねぇ。 ……ジュン、顔真っ赤よぉ。 照れちゃって……かわいい。」 彼女は、幸せそうに笑った。 僕も、幸せな気持ちになる。 銀「ねぇ、ジュン。」 ジ「ん?」 銀「ジュンは、私を、幸せにしてくれるかしら?」 ジ「もちろん」 銀「なら、誓いなさい……この薔薇の指輪に」 左手を僕のほうに差し出す。 僕は彼女の指輪に口付けをする。 水銀燈は、僕の手を取った。 銀「私も――」 そういいながら、水銀燈は僕の指輪にキスをする。 銀「ふふ、一緒に幸せになりましょうねぇ」 顔を赤らめた水銀燈が言う。 ジ「うん。一緒に幸せになろう。水銀燈」 みんなの間の距離は変わった。 それに応じて、届く声も違うものになった。 けれど、それはいつも同じとは限らない。 声を出すことが辛いこともあるかもしれない。 雨音で声がかき消されることもあるかもしれない。 耳を塞ぎたくなることもあるかもしれない。 けれども、だからこそ、精一杯の思いをこめて、 あなたを呼ぶ
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生徒会の守護神 第一章 「学園の真実と二人の守護者」 ~午前5時46分 杉崎鍵の部屋~ 俺は学園に帰った後、俺はベッドに転がり込み呆然と天井を眺めていた 考えるのは今日起きた出来事・・・・・・・・・・・・・ あの後、俺は「いい!鍵ちゃん、今日の事は誰にも内緒だよ。これを持ってそれと明日の夜に体育館裏に着てね。絶対だよ」と言い、金のプレートを渡して去ろうとする凛に慌てて「お、おい!その腕・・・・・・」と呼びかけると、彼女は微笑みながら「?・・・・・・あぁ!これ?大丈夫、明日には元通りになってるから」と言い、どこかへ去っていった。俺はその背を見てどこか納得がいかない部分があったものも、なぜか彼女の言葉を信じることにし、自宅へと帰った 「・・・・・・はぁ、いくら考えても答えなんか出るわけないし・・・・・・・今5時50分か・・・・・・・今日はもう寝るのやめるか」 そう言って、俺は眠気覚ましにコーヒーでも飲もうと財布を持って外へ出かけた ~そして 午後9時00分 体育館裏~ 言いつけ通り体育館裏に行ってみたらそこには凛が気にもたれ掛かっていた 「あっ!鍵ちゃ~ん」 凛は俺に気づくと木から身を起こし、こっちに近づいてきた 「よく来てくれたね」 「まぁな、こっちも早く現状を知りたいし」 「そうだね。じゃあ行きますか」 「行くって・・・・・・どこに?」 俺の質問に対し凛はなにやら腕時計を弄くりながら答えた 「もっちろん!神崎家の秘密基地よ」 凛がそう言って腕時計をカチッと押すと、腕時計が発行し始め周りが光に包まれた 思わず目を瞑る 「ほら!鍵ちゃん、着いたよ。目開けて」 凛に言われ、俺はゆっくり目を開けた ・・・・・・そこに広がっていたのはSF映画に出てくる政府の秘密基地みたいな場所だった 唯一違うのは・・・・・・全てが金色だということ ・・・・・・さっきまで体育館裏にいたのに・・・・・・もしかしてあの光のせい? 「付いてきて、鍵ちゃん」 「・・・・・・あ、あぁ」 俺は呆然としながらも凛に付いて行った 「着いたわ、ここよ。鍵ちゃん」と促され、通されたのは 全長4メートルはある黄金の扉だった そして凛が手で扉を押し開くと、そこにいたのは・・・・・・ 「小山先生!?・・・・・・真儀瑠先生!?・・・・・・それに・・・・・・校長先生まで!?」 そこにいたのは、碧陽学園に勤めてる教職員達だった 「校長、杉崎鍵君を連れてきました」 凛はさっきとは打って変わって、低い声色で言う 「うむ、ごくろう。凛」 「それでは、私はこれで」 そう言いお辞儀して去ろうとする凛に、俺は慌てて呼びかける しかし、それに対して凛はどこか複雑な表情を浮かべ苦笑しながら「大丈夫、すぐ戻るから」と言い、去ってった 「り」 「杉崎」 再び凛に呼びかけようとしたら、生徒会顧問である真儀瑠先生に呼び止められる 「真儀瑠先生・・・・・・・でも」 「心配するな。凛は少し用事をかたしにいっただけだ」 「それって・・・・・・化け物退治ですか?」 「そうだ」 「杉崎、お前はこの学園になんとなく理解はしてるか?」 「え?えぇ。・・・この学園には毎晩化け物が徘徊してて、それを凛が退治して回ってる・・・ですよね?」 「そうか」 「ではその化け物達を呼び寄せてるが、何か分かるか?」 「漫画やアニメ的に言うと、この土地の何らかのパワーが化け物を呼び寄せてるんじゃないんですか?」 「・・・・・・・まぁ、奴らの目的にはこの土地も含まれているから間違っちゃいないんだがな」 「?」 なんだ?違うのか? 「要するにだな。杉崎」 「はい」 「この碧陽学園は・・・・・・・」 真儀瑠先生はそこで一拍置く。俺も思わずつばを飲み込む。そして、真儀瑠先生は口を開いた 「・・・・・・・・・・・・世界発祥の地だということだ」 「・・・・・・・・・・・・・・は?」 一瞬、真儀瑠先生が何を言ってるのか理解できなかった 「そのまんまの意味だ。世界発祥の地・・・世界で一番最初に創られた場所ということだ」 な、何を言ってるんだ?真儀瑠先生は 「とても信じられないという表情をしてるな。杉崎」 「そ、そりゃ、そうですよ。いくら何でも、そんな与太話信じるわけ」 「だが事実なんだよ。杉崎」 「っ」 真儀瑠先生にさとされ、納得できないも俺は押し黙ってしまう それを見兼ねたのか、今度は担任の小山先生が言ってくる 「まぁ、信じられないのは無理もないさ。杉崎 私も当初は信じられなかった」 「小山先生・・・・・・」 「だが、ここにある技術の数々や、奴らと遭遇したら信じざるをえないだろう」 「奴ら?」 「・・・・・・魔術師だよ」 「ま、魔術師!?」 またしても衝撃事実に驚く俺 だが小山先生はそんな俺の様子など、お構い無しに続ける 「そう、魔術師。それが、碧陽を狙い世界を作り変えようとしてる連中だ」 「世界を作り変える?」 「あぁ、さっきも言ったが、碧陽学園は世界発祥の地だ。太古から人間達に気づかれないようにその姿を変え続けていたんだ」 「しかしある時、一人の魔術師を名乗る男がこの土地の存在に気づき、世界を自分の都合の良い様に変えようとしたんだ」 「その事に機危機を感じた神は、当時近くに住んでいた村人、後に神崎家の始祖となりうる男に土地の守護とゴッド・テクノロジー(神々の科学技術)を授けられた」 「なんとか魔術師を撃退させたその男は村長兼土地の守護者として子孫を繁栄させた。・・・・・・それが今の我々ということだ」 「へぇ、・・・でもどうして魔術師はこの土地の事を知ってたんですか?付近に住んでた神崎ですら気づかなかったのに」 「姿を変える時は精神操作を行い、人間達に適当な記憶を植え付けていたんだ。ちなみにこの碧陽だって例外じゃない。だから人間が気づく事は絶対にあり得ない」 「じゃあ、どうして」 俺の問いに、今度は校長が答えてきた 「神の助言によると、この世界の外側の存在(創造主の敵対者)によって、魔術師に魔術を伝授したと云われています」 「とはいえ、魔術はこの碧陽内でしか使えませんが」 「え?どうして?」 「先ほども話した通り、この土地は古来より様々な形に姿を変えてきました。その力は内側に集束されていて魔術師達はこの土地のエネルギーを利用して異世界の法則を現実世界に書き換える事が出来るんです」 「しかし、それはあくまで土地内での話。土地外、つまり世界そのものへ魔術を使い書き換えるには、鍵が必要なんです」 「鍵?」 「そう。その鍵は神崎家の中でも代々認められた者にしか扱えません。心を武器に変えるゴッド・テクノロジーなんです」 「心を武器に・・・・・・・!ま、まさか!」 「そう。昨日杉崎君が凛から授けられた力。あれは鍵の力の一部を凛があなたに授けたんです」 「・・・・・・」 「本来なら、凛には厳重な処分が下される筈ですが、最近になって魔術師達の活動が活発になってきましてね。そこで杉崎君にも魔術師撃退を手伝って欲しいのですが」 校長はニヤと不気味な笑顔を浮かべた 「・・・・・・俺に選択権は?」 「ありません。君は鍵の一部をその身に宿してるので魔術師達に狙われる対象となってしまっています」 予想していた事だが、校長はスッパリと言い放った 「とはいえ、いっぺんにいろんな事を言われて少々混乱してるでしょう。今日はそれ程危険な相手ではありませんので、帰りなさい。そして明日の夜に凛と共に働いてもらいます」 校長はまたしても不気味な笑顔で、無機質に言った。とりあえずムカついたが、ここは大人しく帰ることにした ~杉崎が帰宅した後の真儀瑠と校長の会話~ 「もうちょっと優しく言ってやったらどうだ?校長」 「ハハハ、すみません。昔からの癖でして・・・それより杉崎君は来てくれるでしょうか?」 「心配するな。杉崎は必ず来る」 「何を根拠に?」 「何てったって、あいつは私達以上に、この学園を好いているからな」 真儀瑠は微笑みながらそう言った ~翌日~ 「ハァッ!」 目前のモンスターを心剣で切り裂き、ふとため息をつく。真儀瑠先生の話だと、昨日おじいちゃんが鍵ちゃんにがこの土地の事・神崎家の事を話し、鍵ちゃんに私の補佐を頼んだという ・・・・・・・正直、私は後悔してる。 私達、神崎家は生まれた時から魔術師と戦う事を義務付けられ、夢を見る事を禁じられた。私はそれでも良かった、というより会長や知弦さん、みっちゃんに真冬ちゃん、2―Bの皆、そして・・・鍵ちゃん。彼らを守るのが私の夢だったから。だから、私は自分の家系を恨んだ事は・・・ない・・・ と、私が物思いに耽っていると 「凛!危ない!」 突然叫び声が聞こえ、慌てて振り返ると、私の目前まで迫っていたモンスターは爆発音と共に光の粒子となって消えていった モンスターが完全に消え去った後、私はその先にいた人物を見て驚愕した 「け、鍵ちゃん!」 「よっ、凛。精が出てるな」 そんな事を言いながら、笑顔でこっちに近づいてくる鍵ちゃん。私はそんな彼に対し、なぜだか自分でもよく分からないけど怒鳴った 「馬鹿!なんできちゃったのよ!鍵ちゃん!」 「え?いや、俺は凛の手伝いに」 鍵ちゃんは自分が怒鳴られてる理由が分からず、少し戸惑いながら答える 「馬鹿、鍵ちゃんの、馬鹿」 「凛・・・」 私は泣きながら、鍵ちゃんを罵倒し続ける。そんな私を鍵ちゃんは優しく抱きしめてくれる 「凛、俺の事を心配してくれているなら、ありがとう。でも、俺は大丈夫」 「大丈夫じゃないよ。だって鍵ちゃん、自分の夢を捨てなきゃいけないんだよ。ハーレムも捨てなきゃいけないんだよ!」 私の罵倒に対し、鍵ちゃんは満面の笑顔で答えた 「心配するな、俺は碧陽を守ることも、ハーレムをあきらめる事もしない」 「え?」 「なぜなら、ここは俺のハーレムだからな」
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429 未来のあなたへ10 sage 2009/07/14(火) 12 25 00 ID 2CIwq8b8 トラ トラ トラ 起床。 ぱちりと目が覚める。手を伸ばして鳴る前の目覚まし時計を止める。寝起き直後にも関わらず、全身に気力が充実していた。 窓の前に立ち、カーテンを開ける。日も昇っていない住宅街。新聞配達のバイクと、それに吠える犬だけが音を立てている。 未だに眠る街と、今日という日の訪れを私は祝福してやった。ハレルヤ、ハレルヤ! 顔を拭き、髪を梳かし、身だしなみを整えてから部屋を出る。台所に行くと母が目をしょぼしょぼさせながら朝食を準備していた。 「おはようございます、母さん」 「ふあ、あ~あ~……んー、おはよう優香……ぐー」 「寝ながらキャベツの千切りをしないで下さい」 この人はいつか絶対に指を落とすと思っているが、それにしたって二十年も無傷でいるのは信じがたい。酔拳ならぬ睡剣でも会得しているのだろうか。 ともあれ、私も台所の一角を借りてお弁当の準備を始めた。基本として昨夜の残りに冷凍食品、卵焼き等の簡単な調理、それから御飯を冷ます作業だ。 下ごしらえを済ませ、後は詰め込むだけにしておく。ちなみに一切混入物は使っていない。正真正銘、ただのお弁当だ。 兄の食事に体液の類を混入する行為はあの日から全く行っていない。 それどころか、私はあれほど熱心に行っていた収集行為からも綺麗に足を洗っていた。分別した諸々の品も、そのうち処分する予定だ。 考えてみれば当然の帰結で、あれらは想いを相手に伝えられないことに対する代償行為だったのだから。もはや本人に想いをはばかる必要がないのなら、欲求が解消されて当然だった。 それにしても、カミングアウトした方がまともな趣味に戻るだなんて、皮肉もいいところだ。 兄の部屋に入る。既に日は昇っているが、カーテンは閉じており部屋は暗い。ベッドでは兄が手足を投げ出していびきをかいている。寝相は悪い方なのだ。 それなりに散らかった部屋を横断し、布団をはだけて大口をあけて眠る兄の横に潜り込む。好きな人の温かさと匂いに包まれた。ああ。 大の字になった兄の脇に、体を丸めた体勢。もぞもぞと位置を調節して、兄の腕を頭の下に持ってくる。腕枕万歳。 大きく息を吸い込む。少し汗くさくて、それから日向の匂いがする。私の好きな匂いだ。 ぐにぐにと腕に頭を押しつけると、鍛えられた筋肉が適度な弾力で押し返してくる。くすぐったいのか、兄が寝たまま呻き声を上げた。 430 未来のあなたへ10 sage 2009/07/14(火) 12 26 44 ID 2CIwq8b8 「う、うう~ん……」 「なーお」 おっといけない。発情期の猫のような声を出してしまった。はしたない。 御機嫌な私とは裏腹に、兄は割と寝苦しそうだった。まあ、それはそうだろう。 暦は既に6月後半に入っており、朝とはいえ人間二人が同じ布団に入っていれば暑苦しくて仕方がない。兄の首筋に浮かんだ汗を拭い、舐める。しょっぱい。 私自身は心頭滅却や脳内麻薬でどうにでもなるが、暑苦しそうな兄は可哀相だ。 すぐ側にある兄の脇腹をパジャマ越しにつつく。嫌がって身をよじる。つつく。よじる。つつく。よじる。つつく。よじる。兄さんきゅんきゅん。 調子にのっていたら肋骨の隙間に入ってしまった。げふっ、と兄が呻き声を上げる。いけない、流石に起きる。 うっすらと開く瞼を前にして、私の全身を甘い痺れが駆けめぐった。 想いを認識されてはいけないという体に染みついた習性と、もはや隠す必要はないのだという開放感がせめぎ合う。それは性的な快感にも似ていた。ふう、ふう。 兄の視界に収まった瞬間、イッた。 「ん……ふあーあ……え、優香?」 「あう、ん……」 びくびくと体が跳ねる。パジャマの一部と下着がぐしゃぐしゃになってしまった。着替える前でよかった。 兄は状況が把握できず、混乱しているようだった。 「ゆ、ゆゆゆゆゆゆ優香? なにやってんだお前」 「おはようございます、兄さん。良い朝ですよ」 「あ、おはよう……じゃないっ!」 腕枕を引っこ抜かれて、転がるようにベッドから降りてしまう。ああん。 それから部屋の真ん中に座らされ、しばらく説教を受けた。曰く、年頃の女の子が同衾なんてどうたら。大体お前はそんなキャラじゃないだろうんたら。真面目な表情萌え。 その説教も、私が一言「好きですから」と挟むと真っ赤になって黙ってしまった。ああ可愛い。 「可愛いですよ、兄さん」 「お、お前なあ。さっきから男、それも兄貴に向かっていうことじゃないだろ」 「いいえ、いいえ、これはある種の真理です。何故なら私は」 「わー、わー! わかった、わかったから!」 また赤面するようなことを言われると思ったのか、パタパタと腕を振って言葉を遮る兄。だからそういうところが可愛いんだっての。 それにしても、ああ、自分を隠さないで済むというのはなんて楽なんだろう。今まで水の中に潜っていたようなものだ。 もちろん節度は弁えている。ベッドに顔を埋めてくんかくんかしないし、愛液で濡れた股間は巧みに隠している。 そんなものを見せつけてはドン引きされるからだ。兄の中の私のイメージを崩さない範囲での立ち回りが要求される。 それが窮屈ではないかと聞かれれば、私はまさかと答えよう。今までに比べたら全然どうってことはない。 431 未来のあなたへ10 sage 2009/07/14(火) 12 27 12 ID 2CIwq8b8 一度部屋に戻ってパジャマとパンツを替え、普段より遅れて食卓に着く。 父は私に一瞥もせず、兄は照れ臭そうに視線をそらした。母は例によって二度寝したので姿は見えない。 二人ともすでに朝食は進めていた。特に父は食後のお茶を淹れている段階だ。 私は遅れを取り戻すため、猛烈な早食いで朝食を終えた。年頃の乙女的に描写は控えさせてもらうが、兄より早く食べ終わった。手を合わせてのごちそうさまは忘れない。 目を丸くしている兄を尻目に食器を片付け、お弁当を詰める。今日は悪戯心を発揮して、ご飯の上に桜でんぶでハートマークを描いた。 箱を開けた時の兄の反応を想像して、くすりと笑う。 詰めたお弁当をテーブルに置いておき、兄と入れ替わりに歯を磨いて顔を洗う。部屋に戻って身だしなみを整える。 とはいえ私にとって最大限に魅力を発揮すべきなのは家庭内なのだから、兄の部屋に行く前に必要な分は済ませている。 制服に着替え、兄のベッドに転がることで乱れた髪を整える、程度。私がナチュラルなメイクを好むのも、それが家庭内でも維持できるからだ。 時間割の確認は前日に済ませているから、ここで兄に遅れた分を取り戻せる。 鞄を掴んで玄関に向かうと、兄が座って靴紐を結んでいるところだった。素知らぬ顔をして並ぶ。 「いってきまーす」 「行ってきます」 登校する。今日の天気は晴れだった。 家を出てしばらく二人で歩いていると、ふと兄が呟いた。咎めるような響き。 「優香、あのさ。さっきのことだけど。やっぱりああいうのはやめろよな」 「指示語ばかりで意味が不明瞭です」 「だからその……朝起きた時に布団の中に潜り込んでくるとかさ、父さんや母さんに見つかったらどうするんだよ」 「嫌でしたか?」 「いや、嫌っていうかそういう問題じゃ……」 「嫌でしたか?」 腕を組む。慌てて兄が体を暴れさせれるが、この身に培った技術を尽くして振り解かせない。 歯切れの悪い否定を繰り返す兄に、しばらく体を擦りつけて「嫌でしたか?」の質問攻めを繰り返して本音を引き出す。 「そ、そりゃ嫌じゃなかったけどさ……いい匂いがしたし」 「大丈夫ですよ。あの時間帯でしたら、ほぼ確実に父は朝食で母は二度寝。発見される可能性は極小です」 そんな言葉で安心させて 後は手を離し、雑談をしながら登校した。 もちろんリスクはある。 兄の布団に潜り込んだ時は部屋の鍵をかけたし、お弁当を詰める時も父の視線には注意を払った。 けれどリスクは消えない。ああいうことを続けていけば、露見する可能性は飛躍的に高まるだろう。 リスクの管理をすべきだが、もっと大事なこともある。それは兄にこのリスクを感じさせないことで、それは詐欺に等しい。 そもそもリスクとリターンという観点から見るならば、妹など無意味に巨大なリスクが付随する相手でしかない。まず、真っ先に恋愛対象から外れるはずだ。 それを覆すには、魅力というメリットを最大限にアピールしつつ、リスクを隠蔽しなければならない。でなければ勝ち目はない。 あんな風に兄の布団に潜り込んだのも、気楽を装うことで近親相姦のリスクを軽く感じさせるためだ。詐欺に等しい。 私は……まだ揺れている。 こうして状況をコントロールしようとするのは、結局恐ろしいからだ。兄に全てを委ねる覚悟で、あんな告白をしたのではなかったのか。自分の軟弱さに嫌気がさす。 私は、人の思いが移り変わるものであるということを知っている。私にとってそれが希望であり、最大の恐怖でもある。 何故なら。兄の思いが私に移り変わる可能性があるのならば、私の思いが兄から移り変わる可能性もあるのだから! その二つに価値の差がないのだとしたら、どちらが建設的かは自明の理だ。私はそれに対して、一切論理的な反論はできない。 432 未来のあなたへ10 sage 2009/07/14(火) 12 28 20 ID 2CIwq8b8 高校に着いて兄と別れた後、着替えて朝練に参加する。脳裏に充満するネガティブな思考を昇華するように、打ち込む。 体の切れは良い。一つ二つ格上の相手にも勝てそうだった。兄に告白してからずっとこんな調子だ。今までどれだけ鬱屈していたのだろう。 朝練が終わった後は汗を拭って制服に着替え、近しい年齢の部員で渡り廊下に集まっておしゃべりに興ずる。私にとっては息抜きではない、実用だ。 話題はおおむね下らない。練習の辛さ、先輩方への文句、顧問への苦情、格技場の臭い、肌の荒れ方、痛めた背中、男っ気の無さ。そんな程度だ。 話題そのものに大して意味はなく、親睦を深めるためのツールに過ぎない。 「けど榊さん、最近機嫌いいよね」 「そうそう、だよねー」 「そうですか?」 「だって榊さん、走り込みしてる時に鼻歌唄ってるじゃない。あれはびっくりしたわ」 「それは……気付きませんでしたね」 雑談を終えて解散すると教室に向かう。席に着けばすぐにチャイムが鳴った。今日も兄に会えない時間が始まる。 そうだ、昼食を一緒にしよう。 433 未来のあなたへ10 sage 2009/07/14(火) 12 29 22 ID 2CIwq8b8 昼休みのチャイムが鳴った瞬間、授業中にずっと考えていたことを実行する。 携帯の短縮一番をコール、しながら鞄を持って歩き出す。食事に適した場所は既に割り出してある。 『もしもし?』 「兄さん。たまには一緒に昼食を摂りませんか」 『え、いや。まあいいけど……』 「では旧校舎のあたりで合流しましょう」 『あ、柳沢も一緒でいいか?』 「ダメです」 通話を切る。昇降口で靴を履き替え、旧校舎に向かう。気付けば私は鼻歌交じりに歩いていた。なるほど、たしかに。 途中、昼食に適した場所を探す。日は既に天頂にあり、気温はかなり高い。日陰で、湿気が少なく、そして校舎から視線の届かない場所。余り遠くに行くのも面倒だ。あった。 旧校舎の影に隠れていると、のこのことお弁当を片手にぶら下げた兄が来た。まるきりの無警戒。微笑ましい馬鹿だ。 さっと飛び出して、腕を引っ張る。面食らった兄は訳もわからずに付いてきた。 「こんにちは、兄さん」 「お、おお。どうしたんだ、優香」 「ああ本当に、お馬鹿さんですね兄さんは」 「いきなりひどっ!」 仲が良すぎる兄妹だなんて噂されたくないからに決まっている。それ自体は下卑た憶測に過ぎなくても、間違いなく正鵠だ。 私が目星をつけたのはプールの影だった。校舎から死角となる、コンクリートの基礎部分。プールによって日陰ができているし、何より風通しが素晴らしい。 地面が固いのと敷物の類を用意していなかったのが難点だが仕方ない。ぱっぱと砂を払って座る。兄もぺたんとあぐらをかいた。 「おお、涼しいな」 「ですね。思いつきの割には上手くいきました」 「思いつきかよ! なら、優香がこっちの教室に来ても良かったんじゃないか? そうすれば柳沢も一緒だったのにさ」 「私が二年のクラスで食事などしたら一瞬で噂になります。それに二人きりになりたかったですから」 「あう……」 兄で遊ぶ。ああ可愛いああ可愛いああ可愛い。 赤面して俯いた兄の可愛さが酷かった。ヤバい。もうダメだ、もう戻れない。好きな人に好きと言うことの喜びを知ってしまった今、もう以前の私には戻れない。 それほど、嬉しいし楽しい。ああ、本当に私はルビコン川を渡ってしまったのだなと、そんなことで実感した。 空気を誤魔化すようにお弁当を開けた兄が盛大に吹き出したのはもはや様式美ですらある。 当然のようにご飯に描かれたハートマークについて泡を食って問い質されるが、私の返答はとっくの昔から決まっている。 「どうもうこうも、そのままの意味ですよ。私は、貴方が好きなんです」 「う、うぐう……て、ていうか。こんなの人前で開けたらどうなるんだよ、それこそ目立つじゃないかっ」 「ですからこうして、人目のない場所に来ているではないですか。織り込み済みですよ」 「嘘つけ、さっき思いつきって言っただろ」 「兄さんのくせに一々生意気ですね」 「じゃいあん!?」 どうでもいい話をしながら昼食を共にする その中で六度ほど兄を赤面させながら、私はどうにかして毎日昼食を共にする算段を練っていた。 お互いの教室に出向くのは当然不可。こうして二人での逢引きも、毎日続けていれば発見される可能性は飛躍的に高くなっていく。 それなら、見つかっても問題のない形態をとるべきだが、それが今一思いつかない。 危惧すべきは関係を類推されることで、それを避けるには第三者を入れるのが手っ取り早い。しかしそうなれば二人きりではなくなってしまい、本音で語り合えなくなる。本末転倒だ。 藍園さんのように事情を知る人間ならちょうどいい隠れ蓑になったのだが。残念ながら彼女は社会人だ。今から作るのも非現実的。 結局、リスクを取るか欲求を取るかの話になる。それなら私は 「兄さん。これからもたまには一緒に食べませんか?」 「え、別にいいけど……どうせ家で一緒に食べてるだろ? 別に学校でまで」 「そんなものは兄さんとイチャらぶしたいからに決まっているでしょう」 赤面七回目。 そんな風にして、昼食は終わった。大満足と言える時間だった。 これで午後も授業と部活に集中できる。 434 未来のあなたへ10 sage 2009/07/14(火) 12 29 57 ID 2CIwq8b8 特筆することもなく午後の授業とHRが終わる。 鞄を掴んで教室を後にしようとした私に、割と軽めのクラスメイト(男子)が声をかけた。 「榊さん。今度の日曜、クラスのみんなで遊びに行くつもりなんだけど、榊さんもどう?」 「……」 日曜日に部活はない。彼の後ろを見ると、期待した顔の男子が三人、女子が一人。 このクラスになってから二か月。まだお互いを知りたがる期間は終わっていないようだった。そこには男女としての意味も多分に含まれる。 はっきり言ってこんな時期にくそくらえだが、バッサリ断るのではなく、高校に入ってから私はもう少し器用なやり方を覚えていた。 「すみません、家族と約束があるんです。もしよければ友達を紹介しましょうか?」 「え、榊さんの友達?」 「はい、部活の関係で。今日相談すれば、明日にでもわかると思いますが」 それで話はついた。あとは部活の同輩にお願いすれば、一人か二人は釣れるだろう。資料用に彼等の携帯写真を撮っておく。 結局、彼等も彼女等も、異性と仲良くなりたいだけなのだ。それを軽蔑などしない。私だって行動原理は全く同じなのだから。 中学までは、この手の誘いは全て一刀両断にして高根の花と揶揄された。それよりはこうして仲を取り持って、自然に興味から外れる方がいい。 誰とて高根の花より路傍のタンポポを選ぶものだが、中には興味半分に摘みに来る輩がいて、それが非常に鬱陶しいのだ。 もっとも、私の趣味は高嶺のタンポポとでも言うべきものだけれど。 格技場に赴き、更衣室で柔道着に着替えてから部活に参加する。 走り込みで校舎を回る際、ペースを落として知人の何人かで固まり、例の話を切り出した。 途端、顎を上げて走っていた彼女達が凄い勢いで食いついてくる。なんだろう、異性の話をすると体力が向上するのだろうか。 話の焦点となったのは、彼等の容姿レベルだった。更衣室に戻ってから写真を見せることは約束したのだが、ああだこうだと益体もない品評会が始まってしまった。 資料もない状況で話がまとまるわけもなく、個人的見解の言い合いになったところで先輩に見つかり怒られる。 ちなみにその後、更衣室で固まって写真を品評した結果は『中の中』とのことだった。 二人希望者が残ったので、明日にでも伝えておこう。それなりに可愛いので文句も出まい。 やれやれ、疲れた。 ちなみに、こういうやり方を教わったのは柳沢先輩からだった。人間関係とはつまるところ技術とノウハウだ。次はもう少し上手くやろう。 先輩から格技場の掃除を命令されたせいで、いつもより下校時刻が遅れてしまった。理由はもちろん品評会の件だ。 兄はもう行ってしまっただろうな、とトボトボと校門を目指す。こんなことなら教室での誘いなどバッサリと断っておくべきだったかもしれない。 けれど、校門の脇で、ぽつんと兄が待っていた。 「兄さん」 「ああ、優香。帰ろっか」 そのまま、なにも聞かずに連れ立ってバス停に向かう。部活から帰る自転車の生徒が、何人か横を通り過ぎて行った。 兄は待っていてくれた。 今日は朝からずっとこの人にちょっかいをかけていた。布団にもぐりこみ、通学路では腕を組んで、昼休みには七度赤面させ。 これで放課後も捕まったら、どういう目に遭うかは馬鹿でなければ想像もつくはずだ。 正直、最近の攻勢はかなり強引なアプローチだった。避けられても無理はないだろう。 それでも兄は待っていてくれた。 そうして胸がいっぱいになり、言葉が詰まる。せっかくの下校なのに、兄も黙認していたのに、何も手出しできなかった。 ただ、兄の話すことに小さく頷いて、その指先と右手を繋いで歩くだけだった。 435 未来のあなたへ10 sage 2009/07/14(火) 12 30 43 ID 2CIwq8b8 ――――私は兄を信仰している。 勿論、私は兄が完全とは程遠い存在であることを理解している。私は兄の正しさを信仰しているのではない。だから口出しもするし手出しもする。 もっと根深く、もっと単純なことだ。 私は、この人がいるから生きてこれたのだと。この人の優しさがなければ、私は生きてはいられないのだと。 太古の人々が天と地を崇拝したように、私はこの人の慈悲を乞う。荒削りで、原始的な、私だけの信仰だ。 表面的にはどうあれ、兄が上位であり私が下位にある。私はあの人には絶対に勝てない。そういうふうにできている。 歪みだ。個人が個人に向ける感情として、これほど歪んでいるものはない。 けれど私は、そんな現状に満足している。兄のためなら、微笑んで人を殺せるし、命を投げ出せる。 私は狂信者(Fanatic)でもあるのだから。 今日の夕食は一家揃ってのビーフシチューだった。付け合わせはポテトサラダ。それから野菜ジュースがたっぷり。割と豪勢な食卓だ。 何やら母の機嫌が良かったので、聞いてみたらパート先で若い社員(男性)に親切にされたのこと。 いや、夫の前でそういうことを言うのはどうなんだ?(少なくとも私なら怒り狂う)と思ったが、父は当たり前のようにシチューを啜っていた。 私は毎日、兄に気持ちを伝えようと心に決める。 まあ、母の容姿ははっきり言って年相応の十人並みだ。この年なのだから舞い上がってしまっても無理はないかもしれない。 ちなみに私の顔立ちは父譲りで、若い頃は相当モテたとか聞いたことがある。性格が致命的だったらしいが。 さておきそんな機嫌のいい母の話に対して、私と父は内心はどうあれ流すだけなので、相手をするのは兄の役目になる。 「ええー、でも母さん。浮気とかはダメだからね」 「そんなのじゃないわよー。健太より少し年上ぐらいの子なんだし」 「ていうか、父さんもさー。たまには母さんのこと褒めてあげなよ~」 「そうなのよねー。この人、全然そういうこと言ってくれないのよね~」 「……」 なんだろう、このテンションは。話を振られた父に心底同情する。 とはいえ、私もスイッチが入った時のテンションについては、後で頭を打ちつけたくなることも多い。自戒が必要だ。 それにしても、この二人はどうして夫婦などになったのだろう。昔から何度も考えてはいたけれど、あまりにも相性が悪い。 いや、この二人でなければ私達が生まれてこないのだから感謝はしているのだけれど。 「そういえば、なんで母さんは父さんと結婚したんだっけ?」 「……聞かないで」 しかも、禁句らしかった。なんでだ。 436 未来のあなたへ10 sage 2009/07/14(火) 12 32 27 ID 2CIwq8b8 夕食の後はそれぞれ自由時間になる。空いた順に風呂に入るが、それぞれの行動はまちまちだ。 統計的には、私と兄が自室で予習復習自主トレ、母が居間でテレビや雑誌を見て、父が自室で調べものをしていることが多い。が、ばらつきもある。 つまり、この時間帯は兄といちゃついてはいられない。例えば部屋で行為に及んでいたとして、何かの気まぐれで父か母が訪ねてこないとも限らないのだ。 もちろん部屋に鍵をかけられるが、そうなれば兄妹二人で鍵をかけた部屋の中で何をしていたんだということになる。結論するなら何もしないのが上策だ。 と、私が部屋でこれからの計画を立てていると兄が来た。 話したいことがあるらしい。何を考えているんだろう、この人は。論理的思考をして欲しい。 もちろん喜んで受け入れる。部屋に鍵をかけた。下着を確認、色気のないスポーツブラに縞パンだ、しまった。いや、ここは前向きに考えるべきだ。こういうのが趣味かもしれない。 瞬間的にかなり迷ったが、私がベッドに座り、兄には椅子に座ってもらう。その気になれば即座に私を押し倒せる位置関係だ。ああ処女膜よ、どうか激しい運動で破れていませんように。 私が益体も無いものに祈っているうちに、とりあえず、といった感じで兄が話し出した。あまり緊張している風ではない。 「いきなりごめんな。なんかしてたか?」 「いえ、明日の計画を立てていただけですから。それで何の用でしょうか」 「うん」 私をじっと見る、真剣な目つき。思わず濡れ……じゃない、緊張した。状況に即応できるように脱力する。 と思ったら、兄はふにっとどこか照れくさそうに頬をかいた。何なんだ一体。 「優香は、その……なんで、俺なんだ?」 「は」 「ほら、だって優香は美人だし、よく気が付くし、頭もいいし、料理もできるし。俺よりもずっといい男と付き合えると思うんだけど、どうしてその……俺なんだ?」 それは今日の夕食にも出た話題だった。そうか、兄が本当に聞きたかったのは母にではなく私にだったのか。 顔を赤くしながら、けれど真面目な視線で兄が聞く。ずっと疑問に思っていたことなのか、質問の仕方は兄にしては纏まっていた。 というか、今更過ぎた。 本来ならもっと事前、告白のときに聞いてしかるべき話題だと思うのだが。いや、そもそもこんなことを聞くほうが男として間違っているか。 とはいえ兄としては、まず兄妹間での恋愛感情というものが理解し難いのだから、理由の追求は分からないでもない。 私としては兄への好意は当たり前のことで、そういう意味でも今更だった。とはいえ性格柄、一応の分析は済ませてある。それを伝えればいいだろう。 「兄さん。私は」 昔から、感情の起伏が少ない人間だったこと。 それは性格というよりも障害のレベルで、そのままならば他人の痛みが分からない人間になっていただろうこと。 それでも私がこの場所にいられるのは、兄が私の分まで泣いて笑ってくれたから。 私の自我にぽっかりと空いた、良心や倫理のあるべき欠落。兄の存在だけが、その空虚を満たしてくれること。 私は、私に欠けている全てを持った兄を想うことで、ようやく普通の人間になれるのだと信じている。 437 未来のあなたへ10 sage 2009/07/14(火) 12 33 22 ID 2CIwq8b8 そんなことを、ありのままに伝えて 「以上です」 「……」 部屋を沈黙が支配した。 私は、もはや言うべきこと全てを言い終えた故の沈黙。 兄は、言うべき事を失った故の沈黙。はっきり言って、引いていた。 重い。 空気が、重い。それは、私が兄に背負わせようとしているものの重さなのかもしれない。 私が、兄に背負わせようとしているものは、私だ。 愛した相手がたまたま兄だった、とか、そういう次元ではないのだ。私は、兄を愛するしかない生物なのだ。 心変わりは、無い。今までも、そしてこれからも、私は貴方の後ろにいて、貴方を見ている。私が私である限り。 それを受け止めようとするのなら、近親相姦の禁忌と共に、一生背負っていかなければいけない。 二重の地雷だ。引くのも当然だろう。 だけどそれでも、私は自身の根っこに関することで、兄に対して、嘘をつきたくは無かった。 小細工ならばいくらでも行おう。性癖やアピール、そんなものは枝葉末節に過ぎない。 だけど嘘をつけないものがある。他でもないこの人にだけは、本当にわかってほしいものがある。受け止めてほしいものがある。 私は貴方のためなら誰でも殺せるし、命も投げ出せる。それは喜びなのです、それは歓びなのです。 だから私の全てを、貴方に託します。どうか裁いてください、どうか赦してください。それが私の信仰です。 それは、ああ、兄さん。それが何より重い、私の罪なのでしょう。 兄を好きになったことではなく、兄の人生に私を背負わせようとすること、こそが。 そうして、貴方はもう二度と笑えない。 そんなものを背負ってしまったのなら。あの、日向のような無邪気な笑いは、もう二度と綻ぶことは無いのだ。 「……」 「その……優香」 「返事は、まだでいいですから。よく考えて、後悔の無いようにしてください」 「ん……そう、だな。それじゃ」 「はい」 どんよりとした空気を引きずって、兄が私の部屋を去る。 一人残された部屋で私は、少しだけ自己嫌悪して、少しだけ天罰を祈って、少しだけ笑って、両手を組み、膝をつき 「ああ……兄さん」 笑顔を失った今の兄でさえ、私はこの上も無く愛していることに、深く深く感謝した。
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あなたなら・・・ どれに投票しますか? まずははじめに 選択肢 投票 タイムシェアを知っている-はい (69) タイムシェアを知っている-いいえ (0) 選択肢 投票 タイムシェアの購入について-買いたい (44) タイムシェアの購入について-買わない (10) 買うとしたら 選択肢 投票 私はすでにオーナーです (41) 私はオーナーではない (25) 選択肢 投票 ホームリゾートはハワイ (49) ホームリゾートはハワイ以外 (11) 選択肢 投票 購入基準はオーナーシップのプログラムの内容 (23) 購入基準は管理費 (5) 購入基準はロケーション (13) 購入基準はお部屋や施設の充実度 (17) 購入基準はセールスの対応 (1) 購入基準は友人や親兄弟が持ってるから又は勧められて (1) 選択肢 投票 1week (42) 2week (5) 3week (0) 4week (2) それ以上 (1) 選択肢 投票 正規購入 (37) リセール (7) ほしい物件が見つかればどちらでも良い (6) 選択肢 投票 Fairfild Rezorts (2) Hilton Grand Vacation Club (21) Marriott Vacation Club (10) Westin Vacation Ownership (10) その他 (3) 最後に世代は? 選択肢 投票 ユース (5) ミドル (39) シニア (7) リタイア (0) MaHaLo Next
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登録日:2021/02/02 Tue 02 00 02 更新日:2023/11/06 Mon 03 08 32NEW! 所要時間:約 5 分で読めます ▽タグ一覧 21年春アニメ 22年秋アニメ Eテレ NHK むらた雅彦 アニメ ヒロインが(寿命で)死にまくる漫画 ヒロインはババア ブレインズ・ベース 大今良時 寿命差 漫画 講談社 週刊少年マガジン いつか死んでしまうすべてのあなたへ。 概要 『不滅のあなたへ』は、週刊少年マガジンにて連載されている漫画作品。 作者は「聲の形」「マルドゥック・スクランブル」を手掛けた大今良時。 現在第一部「前世編」が完結し、現代社会を舞台にした第二部「現世編」が連載中。 TVアニメ化もされており、NHK Eテレにて2021年4月から8月まで第一期が放送された。 2022年10月からは第二期が放送中。 あらすじと世界観 この漫画を一言で表すと、「とある世界に投げ込まれた不思議な球体の成長過程をウン百年単位で延々と観察し続けるお話」である。 主人公こと"球"は「何かから刺激を受けるとその対象に変身する」「無限に自己修復する」という"機能"こそ持つが、それ以外にはなにもない。なんと自意識すら存在しない。 "球"はさまざまな存在をコピーするうちに意識を獲得し、感情が芽生え、言葉を覚え、永遠の命を持つ男"フシ"となり、無数の人と出会いと別れを経験しやがて神のごとき存在となる……という、一種の創世記あるいは叙事詩のようなおはなし。 この漫画の舞台は中世をモチーフとしたファンタジーな世界だが、魔法や超能力のようなオーバーテクノロジーはフシなど一部を除いて登場しない。対して"球"、あらためフシは(前述の変身能力と再生能力のおかげで)ありとあらゆる要因で死ぬことがない、タイトルの通りの不滅の存在である。 そんな彼を追っていく"大河物語"である性質上、ただの人間である登場人物たち=市井の人々は物語に次々と現れ、次々と死んでいく。そこに例外はない。 一方で、フシは自我を得たばかりの幼い存在であるため、彼らはフシにとっての師匠でもある。 あるものは母となり友となり、あるものは言葉を授け、あるものはその人生を賭して知恵を授け、フシは人に近づいていく。 総じてこの漫画は、フシの前に現れては消えていく市井の人々の生涯を通して、また成長していくフシを通して「生命とは何か」を問う哲学的な作品であるといえる。 ……これだけ書くと硬派SFっぽくて難解そうだが、中身はわりと「泣けてくるいい話」「心温まる〇〇」系の癒しモノなので、疲れた時に読むといいかも。 登場人物 作品を通して登場するキャラクター フシ CV:川島零士 この物語の主人公。「フシ」とは文字通りの「不死」であることから付けられた通称のようなものであり、本来この存在に名前はない。 あらゆる存在への変身能力を持ち、その力に限界はない。たとえ死んでも自動的に体が修復され蘇るため事実上の不死。 ついでに物体であれば、変身したものを体から千切ることで食べ物だろうが武器だろうが無限に生み出せる。 ……が、その精神性は幼いどころか乳児レベルで、意思疎通ができるようになるのは物語中盤までお預け。 意思疎通ができるようになってもその精神性は未熟なため、驚くほど薄味で流されやすい性格である。 人間というか動物として見るにも非常に未熟で食べ物の概念すら理解しておらず、誕生時は飲まず食わずで餓死→蘇生を繰り返していた。 犬と同等かそれ以下の知性しかない時期は人間の姿をしていながら首に縄をつけられて引っ張りまわされていたりする。 "私" / 観測者 CV:津田健次郎 後にフシとなる"不思議な球体"をこの世界に投げ入れた謎の黒フードの人物。 性別を示唆する描写はないが、CVが某ブルーアイズ大好きな社長なのでおそらく男性。 作中のモノローグはこの人物の独白という形をとっている。 フシの保護者的存在だが、前述の通りフシは滅ぶことがないため、教育方針は基本放置で「死んで覚えろ」スタイル。 ただ、本当に肝心な要所要所ではアドバイスをくれることもある。 また、フシを含めたあらゆる存在は彼に触れることができず、またフシ以外の人間は彼を見ることすら叶わない。 フシを除けば何百年たっても死なない唯一の存在(*1)だが、彼にもまた寿命の概念があるようで、フシに何かを託そうとする言動を見せるが…… ノッカー 本作の敵。フシを追跡する、ジャガイモから長い根がたくさん生えたような小型生命体。無数にいる。 "私"に敵対する何者かが、フシの完成を阻むために遣わしたらしい。 根を物体に突き刺して取り込む能力と、フシの記憶を奪う能力を持つ。記憶をもとに変身するフシにとって記憶は命にも等しいものなので、これをすべて奪われてしまうとフシは球体に戻されてしまう。 フシのみならず市井の人々をも殺して回るが、後に語るところによると動機は「生は魂を肉体に閉じ込め苦しみをもたらす不幸であるから、そこから解放しなければならない」であるとのこと。 各章ごとに登場するキャラクター ありていに言ってしまえば死ぬ方の登場人物。 この漫画は前述の通り数百年の時が流れるため、"ただの人"である彼らもまた世代交代する。 少年&ジョアン 北国の、氷の上に建てられた村に住まう若い男性と狼。 登場時点で既に彼以外の住民は死に絶え姿を消し村自体が廃村秒読みの状態であり、彼の名前を呼ぶ人間が存在しないため名前は出てこない。「ジョアン」は飼っている狼の名前である。 ジョアンがたまたま"不思議な球体"の上で死んだことでコピーされ、少年もジョアンの姿を借りて戻ってきた"不思議な球体"を連れて村を出るが怪我を負い死亡。死後その姿をコピーした"不思議な球体"の旅立つきっかけを作った。 以降、フシはこの姿を基本として行動する。 追記・修正をお願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 短すぎじゃない? -- 名無しさん (2021-02-02 13 26 04) 1000文字超えてるから一応セーフなのでは -- 名無しさん (2021-02-02 21 31 22) 読み途中だけど令和(平成)版の火の鳥みたいな話をやりたいのかなって感じ -- 名無しさん (2021-02-03 00 15 53) 登場人物のせるだけで大分拡張されるだろうし、土台としてはよいんじゃないかな -- 名無しさん (2021-02-03 11 24 20) ハヤセ一族危険人物多すぎだろ -- 名無しさん (2021-02-06 18 29 23) 細かい指摘だとは思うが、マルドゥック・スクランブルはあくまで冲方丁氏の原作があるから漫画版とか前に入れた方がいい気がする -- 名無しさん (2021-02-10 01 17 16) とにかく筆が遅い。面白いから買っちゃうんだけど... -- 名無しさん (2021-02-10 16 18 49) 名前 コメント
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シノビガミ「忍の証明。要塞の真実。」 【概要】 アメリカが太平洋中央に秘密裏に建造した大型要塞「黒真珠」を破壊するシナリオです。 最深部に眠る動力である飛行石を破壊し、見事、敵の女司令官(敵の目前で舌なめずり系)に 吠え面を書かせるのは何処の忍軍でしょうか? ……まぁそこはシノビガミ。まともな終わり方はしませんけどね。 【今回予告】 今回予告 「戦争は、武器を使ってやる外交であり、外交は、武器を使わないでやる戦争である」 かつて誰かがそう言った。外交下手な日本政府の依頼の元、忍びたちは夜の太平洋を駆ける。 ……友好国の要塞を破壊するために。 シノビガミセッション「忍びの証明、要塞の真実」 ……なお、海を走るくらいは忍者だと余裕でできます。 【内容】 大型要塞の破壊を行うというシナリオです。 表向き友好国なアメリカの秘密要塞を破壊するという内容ですが、 実は既にアメリカから破壊許可はおりています。 (というか破壊依頼を出したのがアメリカの『CIA極道』です) 渡来人と呼ばれる異界から来訪した怪物の手により、 既にこの要塞は強大な殺戮兵器に生まれ変わろうとしています。 それを止めることにより、日本政府はアメリカ政府に貸しを作ろうとしているのです。 PC達はそんな事実を知らされず、捨て駒として送り込まれるというのが真実です。 導入は一同を集めて依頼を出す形で良いでしょう。 ドラマパートの前に太平洋で走らせるシーンを作り、 お互いの居場所や感情を取らせることをおすすめします。 ドラマパートでは要塞に侵入しているというシュチュエーションのため、 こっそりと行動させたり雑魚を洗脳するといった要素が多くなるでしょう。 普段できないような外道プレイをどんどんさせてあげると良いでしょう。 クライマックスは飛行石が浮遊している動力室での戦いです。 ここは女司令官の他に「飛行石」が常にプロット3で浮遊しています。 この戦いでは飛行石を破壊してもクリアとなるのです。 ……敵の心配するより前に同士討ちを警戒しましょう。 【データ】 「飛行石」 生命点10 所持特技《生存術》所持忍法『金剛』回避不可 「女司令官」 上忍相当(隠忍の血統、凶尾) 所持特技 器術系「絡繰術」謀術系「対人術」 戦術「用兵術」妖術系「異形形化、召喚術、憑依術、幻術」 所持忍法 獣化(異形化) 魔空(幻術) 血旋禍(異形化)逆鱗(指定特技:対人術) 頑健(装備) かばう(指定特技なし) 奥義 範囲攻撃 絶対防御 背景 隠れ家(長所1点)、感情の欠落(短所1点忠誠を指定) 所持忍具 兵糧丸×1 神通丸×1所持。 【ハンドアウト】 PL1 指定、ハグレモノ 使命「要塞を破壊する」 「本来君はここにいるような忍びではない。だが依頼額は莫大であり、 もし断ったら追手がかかることは間違いない。君は渋々『要塞を破壊する』依頼を受けることにした。」 PL2 指定、比良坂機関 使命「要塞を破壊する」 「比良坂機関は日本政府のために存在し、日本政府の国益となるための期間だ。 ならば日本政府の『要塞を破壊する』依頼は絶対にこなさなければならない」 PL3 指定、斜歯忍軍 使命「要塞を調査する。後一応破壊する」 「この依頼が来たとき君は狂喜乱舞した。アメリカの秘密要塞とあらば、 斜歯忍軍といえど知らない技術がたんまりとあるに違いない! 一応日本政府の依頼はこなす必要があるが、少しはお目こぼしもあるだろう」 PL4 指定、私立御斎学園 使命「依頼を達成して卒業試験に合格する」 「君は学園の落ちこぼれだ。・・・しかしそんな君に破格の依頼が回ってきた。 もしこの依頼に成功すれば卒業してもいいらしい!何が何でもこの依頼成功させねば」 【秘密】 飛行石: この石を破壊した場合、即座に要塞は崩れ落ちる。これは予め準備していなかった場合、 忍者の足を持ってしても逃げ切ることは出来ないだろう。 この秘密を知った段階で、宣言するだけで脱出準備ができたことにして良い。 なお、崩壊に巻き込まれた場合は「1d6点の射撃ダメージ」を受ける。 (ついでにここでパイルバンカーのキ-ワード回収) 女司令官: あなたは既に心身ともに渡来人に支配されている。もし元に戻るならばあなたに 「愛情」の感情を持つキャラクターからの奥義を受けなければならない。 渡来人: シナリオギミック。意識体のみで動いている渡来人。現在は女司令官の体を借りているが、 もし追い出されたら即座にこの世から消えるだろう PL1: 君は本当は依頼なんてどうでもいい。嘗て孤独だった君に唯一優しくしてくれた女性。 彼女が今何者かの手で操られている。君は彼女を救うためにこの依頼を受けたのだ。 君の本当の使命は「女司令官を開放し、自分の元に再び戻す」事だ。 PL2: 君はこの依頼の本当の意味。そして安易に飛行石を破壊したら何が起きるかを知っている。 忍者の足を持ってしても逃げられない崩壊。うまく立ち回れば、他の勢力の弱体化を図る事が出来るだろう。 君の本当の使命は「要塞を破壊し、最低一人要塞の崩壊に巻き込むこと」だ PL3: 君はこの要塞には「飛行石」という伝説の忍具があることを知っている。要塞の破壊は頼まれたが、 コレを持って帰ってはいけないとは聞いてない。さぁ再考の研究素材を手に入れよう。 君の本当の使命は「飛行石を壊さずに持ち帰る」事である。これは妨害する人間がいなければ宣言だけで大丈夫だろう。 PL4: 君は本当は落ちこぼれではない。君の本質は抜け忍を抹殺する誅殺部隊、「学園風紀委員会」の一員だ。 今回君に委員会から依頼された内容は「日本を狙うOGの誅殺」。幸いな事に彼女はあの要塞にいる 君の本当の使命は「女司令官を誅殺すること」だ。邪魔するものにも容赦はいらない。 【キーワード】 ふぁ!?→吠え面 prpr→敵の目前で舌なめずり系 バルス→飛行石、絶対領域→高飛車系のお姉様には必須(女司令官に装備) ファミリーマート→黒真珠の中で営業しています。 パイルバンカー→全てを破壊する ベルリンの壁→大型要塞「黒真珠」
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あなたにもできる協力 カトマンズの環境が改善し、地域の人々が少しでも健康的で豊かな暮らしを送ることができるように、あなたもエデンプロジェクトに協力することができます。 ご寄付 あなたもご寄付によって、エデンプロジェクトの大切な活動の一部を支えることができます。 「小さな額でもいいのでしょうか。」―もちろんです。あなたのご寄付で、たとえば次のことが可能です。 100円のご寄付で、生ごみ堆肥作りやコミュニティーガーデンに必要なレンガを15個買うことができます。 500円のご寄付で、花卉園芸に必要な小型の植木鉢を20個買うことができます。 1000円のご寄付で、約2500枚の再生紙づくりに必要な水6000リットルが買えます。 このように、額の大小を問わず、あなたのなさるご寄付によって、エデンプロジェクトのさまざまな環境活動が可能になります。上記の例の外、現地スタッフ手当や交通費などにも使わせていただきます。 お知らせ 2011年12月に正式にNPO法人の認可を受けたことに伴い、ご寄附等によるご協力は、正会員または賛助会員へのお申込みと併せて受けつけております。詳しくは入会案内のページをご覧ください。 スタディーツアー エデンプロジェクトでは、現地の人たちの活動を手伝ってみたいという志のある方を、随時募集しています。現地の人たちの生活や文化に触れながら、エデンプロジェクトの活動にボランティアとしてご協力いただくことにより、現地の様子を直接知ることができるだけでなく、地域の人たちへの大きなインパクトになります。 現在のところ、定期的なツアーの予定はありませんが、興味のある方は、トップページのフォームをご利用の上、お問い合わせくださるか、NPO法人エデンプロジェクト(沖縄バプテスト連盟内)(Tel.098-878-7629)までお問い合わせください。 エデンプロジェクト製品のご購入 エデンプロジェクトでは、再生紙を利用して製作したハンディクラフトをはじめとするオリジナル製品の販売を計画しています。 お買い上げの一部が、直接、生産者や地域の低所得者の生活を支えることにつながります。 当サイトでの製品ご購入に関する新規ご案内を、もうしばらくお待ちください。 トップページへ
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13 未来のあなたへ2.6 sage 2008/12/05(金) 17 36 03 ID vBiNaN59 こんばんは。雨宮秋菜です。シングルマザーをやっています。 突然ですが聞いてください。しばらく前のことなんですが、ありのままに起こったことを話します。 息子が嫁を連れてきたと思ったら、わたしの娘だった。 何を言っているのかわからないと思いますが、わたしもわかりたくありません。頭がどうにかなりそうでした。 他人の空似とか同姓同名とか、そんなちゃちなものじゃあ断じてありません。完全に兄妹です。 もっと恐ろしいことに、お互いそのことに気付いていないようです。 何のドラマなんでしょう。 娘に会ったのは十年以上ぶりです。息子は、自分に妹がいたことすら覚えていないようです。 わたしも、写真を一枚だけ残しておかなければ、判別は難しかったかもしれません。わたしと娘はあまり似ていませんし。 ともあれ。兄妹で交際なんてとんでもない話です。正気の沙汰じゃありません。 けれど、事故をわざわざ大げさにすることもありません。娘にそのことを教えれば、それとなく別れてくれるでしょう。 というわけで、わたしは娘を呼び出しました。万が一にも漏れないように、夜の公園に車を停めて。 おっと、考え込んでいるうちにもう来たようです。娘が手を振って、助手席に入ってきました。 「こんばんは。わざわざごめんなさいね、藍園さん」 「いえいえ、おかーさんの頼みですから断れませんって」 「えっ!?」 おかあさん……あ、ああ。お義母さん、ね。驚いちゃったわ。 「お義母さん、なんて気が早いわね。婚約したいって義明が言ってたけど、本気なのかしら」 「雨宮先輩は真顔ですごいこと言いますからねー。あ、でも今のはそっちの意味じゃないですよ」 「え?」 「お母さん、ですよね? 改めて、はじめまして」 「!?」 こ、こここの娘……知って!? 「わたしも流石にビビりましたよー。お母さんの部屋を漁ってたら、見知った顔の集合写真が出てきたんですもん。そういえば約一名顔が切り抜いてありましたけど。これなんのドラマかって感じですね」 「な、なんでそんなこと……!」 「だって雨宮先輩がお母さんの話ばっかりするんですもん。ちょっと嫉妬しちゃって嫌がらせでもしようかなって思ったんすよ。思わぬ藪蛇でしたねー」 「な……な……」 「それで今日は何ですか? やっぱりわたし達に別れてほしいってことですか?」 「そ、そうよ。そう、わかってもらえてるなら早いわ。偶然会ってしまったのは不運だったけど、兄妹でなんてとんでもないでしょう?」 「だが断る」 え!? な、なにこの娘。今、どうして、なんて……? 「今さら何言ってんですか。せめて付き合う前に言ってくれってんですよ。もうね、わたしは雨宮先輩がいないと生きていけない心にされちゃったんすよ」 「こ、心?」 「わたしにとって雨宮先輩は、このクソだめの中で拾った宝石みたいなものなんです。今更の他人に明け渡すなんて、とてもとても。とてもとても」 「だ……だって兄妹なのよ!?」 「だから何? ハッキリ言ってそんな繋がり、わたしにはゴミクズほどの価値もないんです。一体どうして、わたしに『家族を大事にする』なんて価値観があると思ってたんです?」 「そ、それは……」 「大体、お母さんはわたしを何も助けてくれなかったじゃないですか。その上、わたしを助けてくれた雨宮先輩を奪おうっていうんですか? あはは」 「ひっ……!」 14 未来のあなたへ2.6 sage 2008/12/05(金) 17 36 59 ID vBiNaN59 娘が笑った、その瞬間。わたしは凄まじい悪寒に襲われた。目が、まるで笑っていない。思わず、怖じ気づきそうになる。 い、いけない。わたしが息子を守らなくてどうするというんだろう。 「い、いい加減にしなさい! 義明にこのこと、教えるわよ!」 「えー、困ったら誰かに言いつけるって、さすがにガキ過ぎやしませんか。でもそれをされると困りますねえ。雨宮先輩も、まだそこまでわたしに惚れてないし」 「でしょう? 今なら許してあげるから、義明と別れ……」 「そんなことしたらわたしも父を呼びますよ」 「!?」 父……父親……この娘の、父親…… と、いうことは、あの人…… ひ ひいいいいいいいいいいいっ! 「いやあっ! いやあああああああ!!」 「おー、すごい反応。本当にトラウマになってるんすねえ。雨宮先輩から常々伺ってますよ」 「ひっ! いっ……!」 「ま、あの父親がクズなのは確かですけどね。どのくらい殴られました? 風呂に入ると古傷が浮かび上がってきますか? あはは」 「ひっ……!」 「でもですね、お母さん。あなただって相当、クズですよね?」 あ。 あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ。 「こいつは父から耳がタコになるほど聞かされたネタなんすが、離婚する時がっぽり慰謝料とってたんですよね。おかげでわたしは生まれてこの方アパート暮らしですよ。あはは」 「そ、それは。しかた、仕方なかったのよ……」 「そもそも話の道筋がおかしくありませんか、お母さん。普通生き別れの娘を見つけたら、家族に迎えるってことになりません? こんな呼び出しなんてしてないで、最初から雨宮先輩に話せばいいことです」 「う、そ、それ、は……」 「うん、わかりますよ、わかります。要するに、わたしを引き取るつもりなんて毛ほどもないんすよね? さっきからお母さん、わたしのこと絶対に名前で呼ばないし」 「そ……!」 「それにもう一つ。クズの案件があるんですがお母さん。雨宮先輩に、セクハラしてますね?」 !! 「なんでわかったかって感じっすね。単に、わたしが雨宮先輩にセクハラして股間に触れたら、すっげえビビられたんすよ」 「よ、よしあきに……!?」 「ああ、もうその反応だけで状況証拠ものですね。息子を男として見てるとか、そんなんでよくわたしのこと責められますよね?」 「そ、そんなこと……そんなこと、あるわけ……」 「あ、そうそう。そう言えばこの件で、確認しなきゃいけないことがあったんですが……えへへ」 娘が照れくさそうに微笑んで。次の瞬間、伸びてきた小さな手がわたしの首をがしりと、掴んだ。 ひ……! 「お母さんは、雨宮先輩と、SEXしたんですか?」 「かっ……あっ……」 「雨宮先輩は、まだ童貞なのかって聞いてるんですよこのクズババア!」 「ひっ……! してない、してません……!」 首を掴まれながら、必死で頬を左右に振る。わたしの顔をまじまじと覗きんでいた娘が、ふと表情を綻ばせて手を離した。 「げほっ……げほっ……!」 「ああ、どうやら事実みたいでお互いよかったですね。さすがに雨宮先輩がそんなことで汚されてたら、わたしもちょっと何の保証できませんでしたから。あはは」 「ごほ……あ……悪魔よ……あなたは……」 「えー? わたしが悪魔だったら、友達に大魔王がいますよ。それにわたしなんて、クズとクズが結婚してすごいクズが産まれただけなんです。当たり前じゃないですか」 「……」 「ついでに物心ついたときからクズのスパルタ教育を受けてますしねー。お母さんが何年で、トラウマ負うほど耐えられなくなったかは知りませんが。わたしは物心ついてからの腐れ縁ですもん。クズレベルが違うんですよ」 15 未来のあなたへ2.6 sage 2008/12/05(金) 17 37 43 ID vBiNaN59 歌うように自慢げに、娘が語る。こんな夜中に、こんな車の中になんて、呼び出したわたしの愚かを死ぬほど後悔した。 けれどどうしたら良かったんだろう。この娘は、怪物だ。わたしの手になんか負えない、怪物になってしまっていた……! 「けれど雨宮先輩は違うんです。クズとクズの間に生まれて、クズにセクハラ受けながら育てられて。それでも奇跡みたいに素直に育って、わたしを救ってくれたんです」 「……」 「ねえ、それがどんな偶然か、想像がつきます? それこそ奇跡なんですよ。わたしは、この奇跡に殉じて生きていくんです。お母さんはいい加減、いい歳なんだから子供に依存しないでくださいよね」 「な……なんであなたは……そんな風に、なったの……?」 「雨宮先輩のせいですよ。今まで我慢に我慢を重ねてため込んできたのが、あの人のせいでぷっつーんと切れちゃったんです。ホント罪深い人ですよね。愛しちゃうぐらいです。えへへ」 嬉しそうに娘が笑う。実の兄のことを語るその様子は、まるで、先輩に恋するただの少女のようだった。近親相姦の禁忌なんて、まるで感じさせない。 悟った。 この娘にとって、家族なんてものは真実どうでもいいものなのだ。わたしに対する『お母さん』という呼称にも、特別な感情はなにも込められていない。 わたしや父親個人に対する憎悪ではなく、家族という概念に対する無価値。それは義明にとってもそうなのだ。この娘にとって、兄という概念はゴミに等しい。 家族を知らない怪物。それが今、わたしの前にいる少女の正体だった。 どうしよう、どうすればいいのだろう。このままじゃ息子が奪われる。息子はわたしの生き甲斐なのに。どうしたら。 警察? いや、だめだ。公事にしたら必ず親が出てくる、あの人と関わる。もう二度と、二度と人生を狂わされたくない。いやだ、いやだ。 なら……いっそ……この手で…… 「そんなに父のことは心配しなくてもいいですよ。そのうち消しますから。えへへ」 「……け、す?」 「だって考えてみてくださいよ。あのロクデナシは絶対、わたしが結婚したら相手の家にたかりに行きますよね?」 「ひっ……!」 「そうそう、怖いですよね。そうなれば一発でばれますから、わたしとしても都合が悪いんです。だから籍を入れる前に消しておかないと」 「……」 人を殺すということ、父を殺すということを、楽しげに扱う姿に、再度怖気が走った。 けれど……そうか……あの男が、死ぬのか…… そうすれば、もう夜中に飛び起きることもない。あの男の影に怯えることもない…… 「本当に……殺せるの?」 「あはは、クズ同士らしい会話になってきましたね。父の食事はわたしが作ってるんで、何だって盛りたい放題ですよ」 「……」 「誰にも見られず殺して誰にも見られず埋めれば、ああいう男が消えても誰も探しませんよ。ね、お母さん。そのときは協力してくれますよね?」 「……ええ、わかったわ」 「えへへ。いい約束ができてうれしいですよ。それじゃお母さん、また会いましょうね」 「……」 娘が最後に笑って、車を出ていく。夜の闇に消えた。 それを見送ってから、わたしは緊張の糸が切れてハンドルに突っ伏した。幸いクラクションは鳴らなかった。 なんて……恐ろしい娘。けど……大丈夫だ。まだチャンスはある。 あの娘が自分の父親を殺したら、わたしには恐れるものなんてなくなる。義明に真実を教えてあげればいい。警察に突き出したっていい。 それまでは仕方ない、我慢しよう。わたしの生き甲斐を取られるのは癪だけど、最後に取り戻せばそれでいいもの。 既成事実を作られると面倒だから、婚前交渉はダメと息子にはきつくきつく言っておかないと。 義明……ごめんね、今は我慢してね。あの男さえいなくなれば、ちゃんとお母さんが守ってあげるから。 わたしを見捨てないで……一人にしないでね、義明…… 「心配しなくても大丈夫ですよ、お母さん。ちゃんと夫婦仲良く送ってあげますから、ね? あはは」